“日常に粋を”keikoTagaiの着物ハットの挑戦
日本中の箪笥に着物が眠っている。
その数は実に約8億枚以上、金額にして40兆円相当とも言われています。
着物の仕事に携わりながら、ふだん着に着物を着て楽しんでいる身としては、なんとも悲しい…
しかしこれが悲しいかな、現実だ。
とはいえ、私を含め着物をふだんよく着る人ですら正装の着物を日常的によく着る、という人はごく一部の人だろう。
パッと思いつくのはお仕事で着物を着る方々、わかりやすい例だとクラブのママとか。
補足すると正装の着物とは····具体的には女性の着物だと黒留袖、色留袖、振袖、付下げ、訪問着、男性の着物は紋付き羽織、袴などかしこまった場所に着ていくフォーマルな着物の種類のことだ。
冠婚葬祭、親族、親戚同士の集まりや地域の年中行事でもかつては着用されていた和服の正装は、いまでは出番が少ないものになっている。
そもそも日本人のライフスタイルの変化により、親族での集まりや年中行事、地域行事への参加が少ない人も多いのではないでしょうか。
というわけで正装の着物は本来の役割すら果たせずに箪笥の中でくすぶっているというわけだ。
KEIKOTAGAIの着物ハット(以下‘KIMONO HAT’)は、正装の着物や帯を使いリメイク、オリジナルの帽子プロダクトへ再生させている。
金糸、銀糸の刺繍や織りに技工を凝らしたものから、おめでたい模様や柄が施された正装の着物や帯が贅沢に使われています。
美しさと素晴らしい製品だと思う一方「どんな人がこのKIMONO HATをかぶるのだろう?」と想像しました。
「洋服に合わせるにしても、お洒落上級者でないと合わせられないのでは?」とも。
しかしながらKEIKOTAGAIのSNSなどで発信されていたKIMONO HATのスタイリングは私が予測していたよりもはるかに日常のシーンをメインに提案されていた。
ストリートにこんなにもゴージャスな帽子たちが溶け込むとは。以外なマリアージュに新しい息吹を感じた。
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ストリートで洋服とKIMONO HATを組み合わせたスタイリング。
どんな洋服にも合わせやすいように計算されたデザインと聞き、納得した。
聞けばTagai氏はもともとアパレル婦人服テーラーとして活躍していたそうだ。
製品や投稿を見ていくうちに実際の製品を手にとってみたい、そして私なりに着物とスタイリングしてみたい、という好奇心とこのブランドを手がけKeikoTagaiの人物像にも興味が湧き、さっそくコンタクトを取ったところ快くコラボを受けてくださった。
KeikoTagaiのKIMONO HAT✕着物スタイリスト ブランカコラボができるまで
あれこれ説明するのも野暮。まずは完成した作品を見てほしい
バケットハットには羽織袴、カクテルハットには振り袖を合わせました。
KeikoTagaiの世界観を最大限活かすべく、スタイリングは和洋折衷のスパイスを足しました。
ロケーションやモデル選定は先方がすべて私に委ねてくださったのKeikoTagaiのカラーも大事にしつつ、スタイリストブランカの私らしいカラーもしっかり入れてスタイリングした。
以下、デザイナー兼ブランドオーナーのTagai氏からのインタビュー内容です。
KIMONO HATができるまでやKeikoTagaiがKIMONO HATで実現したいことなど独占インタビューでお届けします。
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keikoTagaiのKIMONO HATができるまで
ブランド設立ときっかけ
着物の3K問題を知り向き合うことに
どうすれば生活の中に着物を取り入れてもらえるのか?考え行き着いた「着物ハット」の誕生
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日本の伝統や着物のことを何も知らないと感じた自分
・着物をリメイクしている理由は?
・着物を着物ハットへリメイクするうえで心がけていることは
・どんな人にKIMONO HATを身に着けてもらいたいですか
・課題や今後取り組みたいことは?
・製品はどこで購入できる?実物を見ることは可能ですか?
・着物業界や伝統工芸に携わる人の未来について
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インタビューを終えてブランカの思ったこと
1.KeikoTagaiのKIMONO HATができるまで
ブランド設立ときっかけ
・ブランドの創設は何年前ですか?
Keiko Tagaiというブランド設立は2019年。着物を使用したヘッドウェアのデザイン制作をしています。
・ブランドができたきっかけやコンセプトを教えてください。
もともと私は11年前にJON DALICHE設立で、フォーマルウェアのデザインとお仕立てをしていました。
好きなことを仕事にしていて充実感もありました。
人生の節目にして立ち止まって考えた自分のできる事、為すべき事
人生半分ほど生きてふと自分の人生を振り返り「残りの半分の人生を私はどのように使うべきなんだろう?」と考えていました。
そしてなるべく「自分のできる事、或いはすべき事に使いたい」と考えていた矢先にたまたま図書館で着物業界についての記事を発見し、そのまま気になったので着物について詳しく調べてみることにしました。
すると、現在の着物市場にはあらゆる問題があり、市場の縮小が深刻化している、という事実がわかりました。
・着物の3K問題を知り向き合うことに
着物には3K問題というものがあります。着物業界における3Kとは「着付け(着られない、むずかしい)」「価格(高い)」「(着物を着る)機会がない」ことです。
また呉服店の営業手法に対する消費者の不安や不満があることも知りました。
着物の3K問題
その一方で経済産業省のデータでは、特に若年層は着物を普段のおしゃれ着として着たいと思う人達が多く、着物に対して肯定的なイメージを持っている人も多い、しかし3Kを含むあらゆる理由から着物を着たことがない人達も多いことなど、着物についての現状を知りました。
時代の変化に伴う着物の需要低下など様々な問題がありますが、着物を楽しんでもらいたいと願う着物生産者と着物を楽しみたい消費者、その両者の想いを何とか繋げたいと思い自分の為すべきことはこれだ!と思いました。
どうすれば生活の中に着物を取り入れてもらえるのか?考え行き着いた「KIMONO HAT」の誕生
そのために何ができるか、どうすればみんなの生活の中に着物を取り入れてもらえるのか?着物についてもっと色んな人達に興味を持ってもらうためにできる事は何かを考えました。
そして、着物の3K問題をクリアする・多様化するライフスタイルに合う・忙しい現代人でも簡単に楽しめる・まだ世の中にないものをつくろう!と決めて、世界各国の言語で市場を徹底的にリサーチして、まだ市場になかったのがハット(※)で、そうして生まれたのが着物ハット”KIMONO HAT”です。
(※)布帛ではない、カジュアルにもフォーマルにも使える型物のハット
着物=特別なものというイメージや着物=和という枠を取り除き、着物をより身近にそして世界にという意味を込めて「日常に粋を」をコンセプトとし、着物で制作したハットを世界中のお客様へ届けています。
粋なkimonohatは女性にも男性にもおすすめ
・着物をリメイクしている理由は?
着物を使用するにあたって着物の歴史や製造工程、模様など色々と学んでいく中
私は日本人なのに、着物について知っているようで何にも知らなかったことに驚きました。
それと同時に日本には、こんなに素晴らしい宝物があるということに気付きました。
その宝物は箪笥に眠ったまま8億着あるといわれ、更に着られることもなく毎年大量に廃棄されています。
どうにか箪笥に眠る着物を活用して、再びみんなの生活の中で楽しんでもらいという思いから着物をリメイクしています。
着物には、沢山の種類や模様に隠された素敵な意味そして、長い歴史と職人さんの高い技術、私たち庶民の知恵により守り受け継がれてきたストーリーやロマンが詰まっているので、日本の良き時代や日本人の心と美しい精神文化を国内外の色んな人達に感じて楽しんでいただけるように、できるかぎり種類の違う着物や模様を集めてリメイクに使用しています。
・着物をKIMONO HATへリメイクするうえで心がけていることはありますか?
職人さんが着物をどのような想いでつくられて、その想いをどのようにお客様へ届けるかを一番大切にしています。
着物は広げると大きな絵画のようにワンパネルで柄が描かれていて、そこにはストーリーが存在しています。
例えば、右肩に枝垂れ桜があってひらひらと落ちる花弁が左裾から流れる流水に浮かんでいる絵が描かれていたとしたら、その着物を制作した職人さんはきっと、桜が舞い散る風情ある美しさ(情景)を届けたいと思って制作したに違いありません。
そのような着物を私が単純に柄の部分だけをトリミングしたようなリメイクの仕方をして帽子をつくったとしたら、元の着物を作った職人さんの想いはKIMONO HATを手にした人へ届けることができない。と考えています。
着物の生地のどの部分を使うのか?余白までもデザインの一部。
着物の柄の位置や大きさ、種類、空間(無地の部分)をどのように使っているのか、そしてどのタイプの帽子のどの位置にどの程度入れるか?デザインを考えながら一着一着、着物を自ら選び、柄のレイアウトを考慮し裁断します。
職人の想いも届けることによって、お客様に着物を纏ったような高揚感や幸せを感じていただけると思うので、そのためには、着物の柄の位置や大きさ、種類、空間(無地の部分)をどのように使っているのか、そしてどのタイプの帽子のどの位置にどの程度入れるか?デザインを考えながら一着一着、着物を自ら選び、柄のレイアウトを考慮し裁断します。
すべて手作業で帽子づくりをしています。
帽子は、着物や洋服とは違って面(パターン)が小さく、その小さな面でそれぞれの着物そのものの魅力を表現しなくてはなりませんので、それが一番難しいところであり楽しいところでもあります。
・どんな人にKIMONO HATを身に着けてもらいたいですか?
着物好きの方や着物を着たくても様々な理由で着れない方、そしてまだ着物に触れたことのない国内外の人達に楽しんでもらいたいです。
和装洋装どちらでもお楽しみいただけるので、普段お着物をお召しになられる方は、ぜひ着物と合わせてお楽しみいただけると嬉しいです。
・課題や今後取り組みたいことはありますか?
現在はまだつくる事でしか「着物って楽しい!」をお届けできていないので、今後はそれ以外の方法でもお届けできるようにしたいので、いくつかのプランを検討しています。
はっきりとした事はまだ申し上げられませんが、先ずはそのプランを実行できるように、コツコツと力を付けていきたいと思います。
・製品はどこで購入できる?実物を見ることは可能ですか?
オンラインのみでの販売です。ブランドのショップサイトでご購入可能です。海外への発送もしています。
https://keikotagai.com
KeikoTagaiオフィシャルサイト
・着物業界や伝統工芸に携わる人の未来は今後明るいと思いますか?どんな課題があると思いますか?
伝統を守るだけでは未来を切り拓くことはできないので、新たな取り組みも必要だと思います。
着物の魅力や価値は、パターンだけではなく、日本独自のテキスタイルである素材そのものにも魅力や価値があるので、それは十分に世界で勝負できると思います。
技術のある職人さんが素材や技術を現代のニーズに合わせて新たな何かを創造するなど、着物職人さんにしかできないことがあるので国内外へ積極的にアピールしてほしいと思います。
着物産業の高い技術が武器になる
着物を作ることで継承されてきた日本の歴史ある高い技術は、世界のどの国にも勝る最高に素晴らしい武器だと思います。
着物や和という枠を超えて挑戦し続けていただくことを期待していますし、その先に世界へ市場が拡がると思います。
着物業界や伝統工芸の明るい未来は、私たち日本人みんなで創っていくもの
日本には、着物に限らず硝子や漆器など素晴らしい伝統工芸品がありますが、日本人の多くは詳しく知らないのが現状です。
それをできるかぎり国内外へ魅力を発信し、日本の伝統やものづくり文化の素晴らしさを伝えていくことが大切だと思います。
着物業界だけではなくアパレル業界やその他業界、今は個人でも自由に発信できる時代です。
あらゆる方面で「着物って楽しい!面白い!」を後世へ未来へ伝え続けることがその先へと繋がると思います。
・ブランドの思いや読んでいる人はメッセージあればお願いします。
私の夢は、着物でつくり上げたプロダクトを通して、世界の一人でも多くの人達に日本の美と伝統文化を感じていただき、そして10年20年先に「着物を着てみようかな」と思っていただくことです。
長い道のりですし難しい事かもしれませんが、何事も可能性はゼロではないと思っているので、日本人として生まれたことを誇りに思い、日本の宝を世界と共有し、国内外の人達の日常に粋を届けていきたいと思います。
以上、ありがとうございました。
圧倒的なJapan Madeクオリティを実感
keikoTagaiの帽子を手にして感じたことは圧倒的なJapan Madeクオリティだ。
正装の着物特有の正絹の生地の良さや帯の織りなど美しさはもちろんだが、
柄のパターンの切り取り方一つをとっても元の素材への敬意を払っていることを感じた。
丁寧な縫製や精巧なパターン、デザインにも息を呑む。
まるで帽子が自分に向かって語りかけてくるよう。
制作されたKIMONO HATは代表でありデザイナーのTagai氏がパターンを引き、型を起こしている。
着物をクリーニングして、丁寧に糸を解き、プレスして一枚の生地にした後、生地やデザインに合わせて芯・土台を選び、レイアウト(柄の出方)を考慮して一枚一枚裁断、縫製まで、すべて手作業でつくりあげている。
すべて正真正銘の一点物だ。
帽子の仕立て知識ゼロからの出発
驚いたことにTagai氏が帽子を作りだしたのはブランド設立と同年でそれまでは帽子を作る技術やノウハウがなかった、ということだ。 当初は国内工場で生産する計画をしていたものの「着物での帽子の制作が難しい等」理由で断られたため、独学で一修業したという。すごい熱意だ。
2022年7月現在は提携できる国内の縫製工場が見つかり、今後はアイテムによって、工場生産のものとTagai氏が制作したもので両軸での展開していく予定だ。
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KeikoTagaiインスタグラムより
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ますます今後の展開が楽しみだ。
Keiko Tagai Profile
1997年 独学で婦人服のパターン、縫製、デザインする
2011年 JON DALICHE 設立 婦人服全般フルオーダーの制作及び販売
2012年 KEIKO TAGAI 商号変更 フルオーダードレス制作及び販売
2018年 帽子制作修業期間 帽子の歴史や基礎を学び、布帛以外のハット制作に専念する
2019年 海外展開 日本の伝統的な着物を使用したハットのデザイン・制作、当オンラインショップにて販売開始
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